小説版「タタリガミのミカ」

中古同人ノベルソフト タタリガミのミカ

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詳細
 2002年小説版作成。当時のままのため誤字訂正等はありません。
 2005年に成人向け同人ゲーム版、2014年にボイスドラマ版公開
 初期設定のため、ゲーム版とは内容が一部異なります。
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タタリガミのミカ
 回る。
 時間は回る、回っていく。
 大きい針と小さい針がくるくると動き、時間が巡っていく。
 目を閉じて、空気を吸い込めば十秒経過。
 ついでに髪もいじってみれば、一分経過する。
 そうして私の時間は過ぎていく。
 ゆっくりと、ゆっくりとだが私は時の流れに巻き込まれる。
 動けなくなってしまえばいい。
 動かなくなってしまえばいい。
 私は、こんな身体欲しくなかった。
 時の狭間に落ち込み、永久に動けなくなってしまえばいい。
 私はミカ、ただのミカ。
 そうじゃないのが恨めしい。
 変わるものなら変えたい、今の私を今のすべてを。
 どうして?
 答えはない。答えをくれる相手も居ない。
 誰も居ない。だれも・・。

「もう一度、言って」

 私の読書時間を福祉センターの偉い人は邪魔をした。
 ちょっと不機嫌になりながらも、さっきの言葉を私は聞き返す。
「あなたが欲しい、っていう人が居るの」

 この人は、センターの管理をやっている人だったと思う。
   長い髪をだらだらと垂らし、香水をちらつかせては、男の人と遊びに出かけている らしい詳しくは知らないけど。
 好きではないが、嫌いでもない。
 そんなところだ。
「誰?」

「この間、見学に来た三原さんて方。
知ってる?」

「知らない」

「ミカちゃん。詳しい話は、またするね」

 名前もよく知らない女性は、足早に帰っていった。
 なんだか、本を読む気も失せてしまう。
 今日は珍しく、絵本なんて読んでいたからよけいだ。
 私は小さい時から少し大人びていた。
 今の年は五歳だが、あまり実感もない。
 けど、漢字が書けるくらいで大人達が騒ぐと知っているので、普段は子供らしく過ごし ている。
さっきみたいに、あほらしい絵本なんて読んでたりもしなくてはならないので、 いい加減イヤになってきた。
「私が欲しい、ね」

 何が気に入ったのか、何がいいのか私には理解できなかった。
 親が誰なのか私は知らない。
 これから親が出来たとしても、親とは思わないだろう。
 ミカという名前を持って、気がついたら私はここに居た。
 親が残したらしい紙と、ペンダントを手に、長い黒髪を揺らす。
 それだけなら、親を求めていた寂しい五歳児だったかもしれない。
 困っている。
というよりイヤだ。
 そう、私の後ろ。
 彼が私を困らせるのだ。
 たぶん、私がこの世に生を受け、目を覚ました時から居たのだろう。
 人は彼のことを、昔はこんなふうに呼んでいたらしい。
 タタリガミ。
 だから私は、彼のことをタタリガミと呼んだ。
 誰がそんな名前を付けたか、昔とはいつの頃からなのか。
自分としては、少し興味が あったのだが、タタリガミは何も話さないので、私も聞かない。
 性別は男らしい。
 私が呼ばない限り彼は話さないし、何もしてくれないので、そんなことも私はよく 知らないで居る。
「タタリガミ」

 試しに呼んでみれば、機械音のような少し耳障りな声が頭に響く。
 これが彼の言葉だ。
 考えてみれば、彼が居るせいで私は子供らしくないのかもしれない。
 ・・・まあ、どうでもいい事なんだけど。
 私は再び、先ほどの絵本に目を通した。
 読めば読むほど、おかしな話だ。
現実には考えられないような現象がまるで魔法でも かけたかのように起こる。
2ページぐらい読むと、早くも眠くなってきた。
 目をこすりつつ、ページをめくるが限界のようで、手が重くなってきた。
 いい加減飽きてしまった私は、絵本を元の場所にしまい、図書室のクッション にもたれる。
 いい感じで目を閉じようとすると、先ほどの女性が慌てた様子で戻ってきた。
「行きましょう、ミカちゃん」

      「ここがあなたのおうちよ。ミカちゃん」

 私がお母さんになった女は、安っぽいコロンの匂いがするシミだらけの中年。
 お父さんになったのは、髪の薄い太めの男。
 彼は電気会社の取締役で、案内された家もかなりのか豪邸だった。
 公園のように広い庭と馬鹿みたいに大きいお屋敷。
 両親になってしまったらしい二人に連れられて、私は子供部屋に案内された。
 部屋は、私が暮らしていた場所の十倍以上の広さで、ベットは天蓋付きのカーテンは レース。
部屋にはたくさんのぬいぐるみとおもちゃが並べられている。
 あきれかえって言葉も出ない。
 これで、私が喜ぶとでも思っているのだから、たちが悪い。
 とりあえず、私は子供らしくぬいぐるみに飛びついた。
 演技には両親も満足したようで、二人は部屋を後にし、私一人が部屋に残されること になった。
   腑に落ちない。
   管理の女性に話を聞いて、その日のうちに私は引き取られた。
 もちろん。
まわりのみんなに話す時間も無かったし、別れを告げる時間もまったく 無かった。
これではまるで、誘拐だ。
 考えてみれば、管理の女性はどこからか最近になって配属されたばかりだし、実は センターの人間ではない可能性もある。
 そう考えてみると、これは違法だったりして。
 よく、子供が欲しいけど、許可が貰えずに怪しいことをして手に入れる人が居ると何か で読んだことがある。
 経済的やら何やらで、孤児を引き取るのには制限がある。
 ただ、この豪邸を見る限り審査はパスすると思うのだが・・。
 私はぬいぐるみを抱いたまま、部屋のドアを調べてみた。
 やはり、外から鍵が閉められている。
 少し不安になり、一つだけある大きな窓には鍵すらついていなく、中からも外からも、 開けることは出来なかった。
 監禁。
 そんな言葉が頭をよぎる。
 コツコツと窓ガラスを叩いてみて強度を確認すると、私はすぐに部屋の隅にあったイス を窓めがけて投げつけた。
 ビクともしない。
 どうやら、防弾だか強化だかのガラスなのだろう。
「ふう」

 逃げ道はないようだ。
 ためしに部屋を探索してみれば、ご丁寧にお風呂とトイレまで用意されている。
 ここに住んでくださいって?  私は苛立ちのあまり、手にしていたぬいぐるみを投げつける。
 分かってたとはいえ、こうも簡単に監禁されると腹立たしい。
 こんなおもちゃを与えられて、喜ぶほど性格の良い女ではない。
     しばらくすると、ドアから見覚えのある青年が現れた。
「ミカちゃん。私がしばらくの間、ミカちゃんのお世話をするからね」

 彼の名前は藤代コウ。
 センターで私の勉強の先生だった。
優しい物腰の先生で、少し私は気に入っていた。
折り紙を作るのが上手で、特に鶴は何度も作ってもらった。
 なんとなく、私がここに連れてこられた理由が分かった。
 この人は私が小さい頃から居たのだから。
「先生。みんなは?」

「みんなはセンターに居るよ。
私はしばらく、ミカちゃんと一緒」

 あどけない笑顔を私に見せる。
 裏があったのね。
この笑顔には。
 先生はそれだけ言うと、帰ってしまう。
 鍵はもちろんかけたままだ。
 人が集まらない部屋ね。
「タタリガミ」

 私は彼に呼びかけてみた。
 答えはすぐに、呼びかけには素早いところが私は気に入っている。
 彼は存在としてはない。
 もしかしたら、私には姿が見えないだけなのかもしれないが、一度も形としては 見たことがない。
 頭の中で響く声が彼の存在証明だ。
「もしもがあった時、あなたは何か出来る?」

 彼は低級霊らしく、凄いと呼べることは出来ないが、それなりのことはやって くれる。
「ワタシノデキルハンイデ、アナタヲタスケル」

 機械音のような言葉が、頭に響いてくる。
 彼がずっと私の中に居る。
というのは困ることなのだが、たまの助言は役に立つ こともある。
でも、今は役に立つのだろうか?  何だか頭が痛くなってきた。
 これからどうするか。
 考えていると、先生がいいタイミングで昼食を運んできた。
 温かいスープを飲んで、身体を落ち着けることを選んだ。
     屋敷での生活は、簡単なものだった。
 おもちゃが追加される、食事が運ばれる。
それの繰り返し。
 そして、部屋には鍵が閉められ、外に出ることは出来ない。
 出してくれない理由は分かっていたが、私はそれをしなかった。
 退屈。
 それくらいで、監禁生活からのがれたいと思うのは、かなりしゃくである。
 ためしに先生に、おうちに帰りたい。
センターに帰りたいと言ってみれば、先生 から帰ってきた言葉は、紙がないと帰れないんだよ。
 ミカちゃん何か紙を持っているの? なんて言ってきた。
 答えはもちろん、持っていない。
 私には、両親が残したらしい紙がある。
 それらはお金になるもので、お金にすれば数百億単位になるらしい。
 詳しい話はよく知らないが、引き取られた時持っていたようで、先生達は ミカちゃんのご両親は、きっと迎えに来るわと口々にしていた。
 親のことなんてどうでもいいが、この紙が大人にとって大事な物だというのは 知っている。
人殺しをしてでも欲しい物だ。
 だから、三原さんや先生はどうしてもこれが欲しいのだろう。
 でもね、私は紙を小さな民間の金庫にしまってしまった。
 私を探っても、出てはこない。
 無駄なんだけど、いつまで続けるやら。
「タタリガミ、この部屋を破壊して」

 出来るかどうかは分からないが、私は命令してみた。
「カノウデハアル」

「ではある?」

「ワタシハテイキュウレイダ。
ダレカラカゴサイマデアナタヲマモルトメイジラ レテイル。
ゴネンカンヲコエルチカラハナイ」

「つまり、私が六歳になったら居なくなるってこと?」

「ハカイコウイハチカラヲタイリョウニショウヒスル。
ワタシノイシキハスウカ ゲツモタズ、スグニショウメツスル。
ワタシハイキテイタイ。
ゴネンノサイゲツヲ コエレバ、ワタシニモナントカイキルミチガデキルトキイテイル。
スマナイガソノメイニシタガウコトハデキナイ」

「しかたないわよ。
あんただって消滅したくないもの」

「スマナイ」

 タタリガミの声が聞こえたかと思うと、部屋のロックが解除された。
 それくらいなら出来るということか。
「ありがとう」

 辺りを確認し、私は久しぶりに部屋を出た。
 廊下から漏れる日差しがやけにまぶしい。
 あの部屋は、日があまり当たらなかった。
 私は、辺りに人影がないことを確認すると、部屋の探索を開始した。
 どこかに階段があるはず。
 きょろきょろと見回しても、それらしい物は無い。
 よく見てみれば、ここは二階だったようである。
やけに地面が近い。
 だったら、窓があればいい。
 私はさっきまで居た部屋の、二つ隣のドアを開いた。
 そこは、物置か何かだったようで、調度品や家具などが乱雑に並んでいる。
 窓らしいものは無かったが、奥の方に小さな小窓のようなものが見えた。
   ステンドグラス。
 そんな感じな小窓には、綺麗な色合いの装飾が施されて、日が当たって透けて 見える。
 鍵も何も付いていない、飾り窓だったのは残念だがそれは普通のガラスのよう である。
少し考えて、私は部屋にあった瓶で窓を叩き割った。
 もちろん、屋敷の住人に私が逃げたことを知られるのも承知で。
 キラキラと、割れた窓ガラスがきらめいた。
 私は深呼吸一つで、小窓から外へと飛び降りた。
 風が強く押し寄せる。
「タタリガミ! 衝撃を緩和してっ!」

 私がそう叫ぶと、タタリガミは何事かつぶやいた。
 すると、私の足下に風のクッションが現れ、身体はふんわりと地面に到着した。
 二階とはいえ、私は五歳児の小さな身体。
 地面に叩きつけられれば無傷では済まされない。
こんな時は便利ね。
「ありがとう」

 最初に連れてこられた時の地形を思い浮かべ、私は正確に門へと走り出した。
 しばらく運動できないでいたためもあり、少し転んでしまう。
 そんな自分が少し情けない。
 息が切れそうになると、ようやく庭へとたどり着いた。
 これを越せば門は目の前。
 しかし、私が逃げ出したことに気づいたのか、庭には恐ろしそうな顔の犬達が 私を捜し回っていた。
 ドーベルマンとかだっただろうか?  私の匂いを察したのか、犬達は私めがけて駆け出した。
 犬のスピードには、決してかなわない。
「タタリガミ!」

 私の前に空気の壁が完成し、犬達は壁に激突して目を回した。
やった。
と思ったのもつかの間、壁は何故だか消えてしまい、犬達がチャンスと ばかりに私に飛びかかった。
 大きな犬に押し倒され、私は身動きが取れなくなった。
「タタリガミ、どうしたの?」

 答えは返ってこなかった。
ただ、縄を持った先生が薄れゆく意識の中でにっこりと 微笑むのだけが印象に残る。
    「逃げたりしなければ、痛い目に遭わないのに」

 元の部屋。
 ただし、今度は先生も一緒だった。
 荒縄がきつく手首を締めている。
先生はにこにこと笑うばかり。
 怖い。
 初めてそう思った。
 私には今までタタリガミが居てくれた。
 どんな時も助けてくれていた。
それなのに、私は邪険に扱う。
 寂しくて、初めて涙がこぼれた。
 タタリガミはもう現れない。
「紙はどこにあるんだい?」

 ほら、話はそれよ。
 先生もお金に執着しているのを知り、私はイライラする。
「この間、テレビで見たわ。経営に悩んでいるんですってね、三原電気。
そして、 あなたは、そこのご子息なんでしょ?」

 私の大人びた口調に、先生は少し驚いたようだった。
「私には、莫大な遺産がある。
それに、私は孤児で親戚も両親も居ないし、 後腐れもないし、書類をごまかせば私の証明は無くなる。
そうでしょ、先生?」

「そうだよ」

「いつから考えていたわけ?」

「二ヶ月前、株価が暴落したあたりさ。
私は一人っ子だったのに親不孝ばかりでね、 せめてもの恩返しと思いついた」

「あのセンターの人はニセモノね」

「そうだ」

「私の遺産が手には入れば、会社は助かるのね」

「そうだよ。ミカちゃん」

 先生は少し寂しそうな目をした。
 罪悪感が少しでもあるなら、縄を解いて欲しいものだ。
  「場所は知らないし、教えるつもりもないわ」

「教えてもらうさ」

 初めは聞き出すだけだったのだろう。
 これから私はどうなるか。
 考えつくのは簡単だ。
 痛みと苦痛。
自白剤もあるかもね。
「好きになさい」

 私はまっすぐに先生を見つめた。
 先生は、ゆっくりと私の汚れきった服をはぎ取っていく。
 どこを探しても、私は持っていない。
 あれは金庫の中。
 鍵は私しか知らない。
 顔がだんだんと近づけられ、後ろには天蓋の付いたベットがあった。
 手が上へ下へと動いていき、衣服をはぎ取る手が加速する。
 冷たい先生の手が私の身体に触れ、やんわりとそれが蠢く。
「好きになさい」

 私はもう一度言ってみた。
 微笑んでいた頃の先生はもう居ない。
 タタリガミと私はつぶやいた。
 やはり答えは返ってこない。
 先生からの衝撃で、ペンダントが揺れる。
 冷たい風が静かに流れていくのを感じながら、私は瞳を閉じた。
     どこにあるんだと先生は聞く。
 横っ面をひっぱたく、髪を引っ張る。
肌を噛み、うっすらと血が出てくる。
 もう、怖くはなかった。
 先生が何だかおもちゃを取られた子供のようでひどく笑える。
 私はくすくすと笑ってあげた。
 すぐに平手が飛び、先生は怒りを露わにする。
「何がおかしい!」

「あなたは私のすべてを調べた。
でも見つからない。
 だったら、そんなものは、無いのよ。
先生の妄想よ」

「そんなはずはない!」

 私はまた笑ってしまった。
 そして、笑い続ける私の喉に先生は手首を回す。
「言え! どこだっ、どこにある!」

「知らない」

 両手が完全に喉を押さえる。
 私は気持ち悪くなって、胸を押さえる。
 手を止めるつもりもない。
 だって、先生は好きなようにして構わないんだから。
 体温が上がったようで、私は顔が熱くなってきた。
 もう、これまでなのかもしれない。
 ふいに、タタリガミのことが思い浮かぶ。
 私の命を聞いていたばかりに、彼は消滅したのかな。
 でも、私が居なくなる前に一声、ただ彼を呼びたい。
 私は先生の手を押さえ、小さく漏らした。
「・・・タタリ、ガミ」

 眩しい閃光が溢れ、私は遠くに飛ばされる気がした。
 先生は目を覆いながら一人苦しむ。
「タタリガミ」

 何も見えなくなる。
 私の目の前は深い闇に包まれた。
 チッチチッという時計の針の音がする。
 風が起こり、目を覚ますと私は屋敷にいた。
 そう、元は屋敷。
 草原になった、ここ。
 ここには、怖い犬達や先生や両親になってしまった人達は居なかった。
 タタリガミも居ない。
 誰も居ない。
 ただ静かに、草が風に揺れていた。
  エピローグ  センターに戻った私が待っていたのは、泣き顔の先生方と孤児のみんなだった。
 私の書類を変更した管理の女性は逮捕され、数十日ぶりに私はセンターの部屋に戻ることになった。
 いつもの小さな相部屋だ。
 生活が元に戻ったと言っても、私にはやる事もないし、特に変化のないいつも通りの日々が過ぎていく。
 でも、先生は居なくなってしまったままだ。
 居ない、と言うより先生に関する記憶がすべて消えてしまったらしい。
 センターのみんなはもちろん覚えておらず、書類などをのぞき見てみても、どこにも 先生の名前は無かった。
 三原電気も無くなった。
 私の両親だった人も、会社も、屋敷もみんな無くなり、ただ残された財産と言うべき 通帳だけが私の名義で残されていた。
 三原ミカ。
 どうやらそれが、私の新しい名前らしい。
 まるで絵本の中の魔法のよう。
 けれど、どこを探してもタタリガミは居ない。
 それをした本人が居ないんじゃ、私がお金を奪ったみたいだ。
 少しだけ気分が良くなった。
 後の処理をしっかりして、タタリガミは居なくなった。
 消滅したか、生きているのかは私にも分からないけれど、もしも彼が帰ってきてくれたら、今度は彼のために私が働く番だ。
 未来を思い浮かべ、ちょっとまぶたを閉じた。
「えっ!」

 突然お腹が痛くなり、私はベットに走る。
 違うわ。
           明らかに違う場所からの痛みに、私はとまどう。
 ただ、お腹が痛いだけならこんな痛みはない。
 慌てて服と下着を脱いで調べてみれば、私のそこからは、赤い血と何かの小さな固まりが溢れていた。
「先生との、子供」

 何故私のような幼児から出来たのかは知らない。
 ただ、それ以外思い当たることもなかった。
 そっか。
 うっすらと、涙が溢れてくる。
 子供が死んだ、それは悲しいけれど、先生が居た証が無くなってしまったのはもっと悲しいことだ。
 私はその子を大事にしていた木箱に入れ、引き出しにしまった。
 ほんとは埋めてあげるのが一番なのだろうが、この子を誰の目にも触れさせたくなかった。生まれてはこれなかった小さな私の子供。
 これで先生は、本当に居なくなってしまった。
 ベットに身体を投げ出すと、胸がキリリと痛み出す。
 眠ってしまったら、すべては終わるのか?
 そんなことは無いし、それで私の罪が消えることはない。
 ただ、何も出来ずに泣いた。声を立てて私は泣き続ける。
他に何もせず、何もやろうとせずに悲しみだけが私を襲い続け、追い立てる。
 小さく、どこからか子供の声がする。
 誰かに見られたのではないかと慌てて見回すが、周囲に人影は無かった。
 ふいに、何故だか目の前に赤い瞳が現れる。
 綺麗な色をした瞳が私を見つめ、なんだか笑っているように見える。
「誰? タタリガミ。それとも、先生?」

 私が話しかけると、瞳だけだったものが、金色の髪をした少女のような実体になっていく。この少女に心当たりもない。
「幽霊。それとも、あなたもタタリガミ?」

 どちらでもないような会釈を彼女はした。
 何が嬉しいのか、その子はクルクルと私の周りを回り続け、透き通った金色の髪が私の顔をくすぐる。
 はっと、頭にひらめくものがあった。
「そう。あなたは、私の子供なのね」

 小さな可愛らしい声で、彼女はおかあさんと囁く。
 間違えない。先生と私の子供。
「今までは、タタリガミが私をずっと守ってくれていた。今度は、私があなたを守るわ。何も出来ないけれど、私はあなたのお母さんよ」

 私は彼女の頭を撫でる。通りの良い滑らかな髪が、うっすらとした温かさを私に運んでくる。
「私はミカって言うの。
 あなたにも名前を付けてあげる。サラ。
 それがあなたの名前よ。よろしくね、サラ」

 サラは嬉しそうに私に頬ずりをしてくる。
 この小さな魂を、私は守りきることが出来るのだろうか?
 どこからか、タタリガミの機械音が聞こえる。
終り

中古同人ドラマCDソフト タタリガミのミカ ボイスドラマ




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