小説版「タタリガミのミカ」その2

中古同人ノベルソフト タタリガミのミカ

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詳細
 2003年小説版作成。当時のままのため誤字訂正等はありません。
 連載三部作のおまけでした、第二話と第三話はデータ紛失のため手元に無し。
 2005年に成人向け同人ゲーム版、本作はゲーム内のおまけとして収録。
 2014年にボイスドラマ版公開

 初期設定のため、ゲーム版とは内容が一部異なります。

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ひと夏

 暑さで身体が参る。
 流れていく汗は鬱陶しいくらいに肌を通って、それから皮膚が湿っていって邪魔になる。
 長く伸びた髪は束ねられてじわりと肌に絡み付いて気分を滅入らせてくれる。
 ――――最悪だ。
 今日は、来なければ良かったのかもしれない。
   学生鞄を片手に、ほとんど歩いたことも無い道を行く。
 制服はロングスカートのセーラー。
古風な感じがする紺のリボンタイ。
これが気に入ったから入った学校、谷塚小沢中学。
わたしの家の近所にある、古びた形の古びた校舎。
 薄茶色の壊れそうな校舎、少ない生徒数。
 以前来たのはいつの事だろうか?  覚えている限りでは今年の始業式。
あれだけはきちんと参加した気がする。
 それより前となると1年の時だったか2年の時だったか……………さっぱりだ。
 気まぐれにきちんと通っていた小学時代と違い、中学に入ってからは家に篭る事が多かった。
 別に不登校グセがあるわけでもないし、勉強が苦手でもない。ま、我侭だ。
 制服は気にいった。
までは良かったが、古風な学校に相応しく女子は三つ編み男子は坊主の封建的な学校。
 規律を重んじて、常に正しく生きて―――それから――  校門を過ぎて校舎内に入る。
 ここでも校則はしっかりと守られていて、悲しいぐらいクローン人間どもが歩く。
やつらをあまり人だとは思いたくない。
 三つ編み、坊主、三つ編み、坊主、短く切り揃えられた髪、三つ編み。
 毒でも食べて生きているのかと疑いたくなるような人々。
 わたしの髪はとても長い。
 子供の頃からほとんど切った事が無かったため、腰に届くぐらいの長さを持っている。
 長らく切らないで居たおかげで愛着のようなバカな感情を持っているため短く切るつもりはない。
 だからって三つ編みにする気なんてまったく無い。
 理由はまた我侭。
 面倒がキライで、自分の思う道だけを取りたい社会に外れたわたし。
 集団行動なんて真っ平ご免だし、毎日毎日学校なんかのために髪で苦労するつもりは無い。
 三つ編みにするのがイヤなので学校には行きません。
 それを理由としてわたしは不登校を続けていた。
内申に響く、学業が遅れる、健康な身体の癖に何て無駄な事を。
 ――――批判は零れる様に溢れた。
 が、それで特例を認められるわけじゃ無し。
これが公立の条件か、わたしは学校体制に負けて不登校をしていた。
 どうしてもとせがむ時、今日みたいな進路相談の時だけここに来て、後は自宅で有意義な時間を過ごしている。
 階段を昇り終えて、教室に入る。
 午後からの登校だったため、中に入った途端一度しか有った事が無いクラス連中の視線が痛い。
 今日は三つ編みになってしまっている髪を撥ね退けて、今年2回目の自分の机に座る。
 本鈴が鳴り渡り、と同時にほとんど初めて見る担任が室内に入ってきた。
 生徒達を見回し、わたしの姿を確認すると”三原、今日は来たな”と大声で言う。
 余計なお世話だ。
あなたが呼んだからわざわざ来てあげたんだから、感謝されても答えてあげる義務は無い。
「…………………」

 担任は、わたしの答えを待っていたらしい。
が、数十秒たつと諦めてくれたようで、すぐに手にしていたプリントを配り始めた。
 進路調査票。
 公立に行くか私立に行くか、志望校はどこにするか、文字だけの羅列が手渡された。
「三原さん、今日のご機嫌はいかがですか?」

 ホットミルク片手に、白衣姿の男が嫌味にしか取れない言葉を吐く。
 彼はここの養護教諭。
自称、保健室の美青年―――糸倉先生だ。
 いや、先生と呼ぶには”へど”が出る。
 中学高校と各地を回り、女の子が多い所では女装を男の子が多いところでは男装をしている、根っから の女好きの男性教師。
不登校といえど、試験は受けなくてはならなかった関係で――――その、保健室登校 をしていたため分かってしまったからくり。
 が、こいつは意外とあっさりしているタイプでわたしもそこまでキライにはなれず、また自分が逃げ たい場所としてこの男の傍に行く事を良しとしていた。
「とにかく機嫌は最悪よ。
三原は成績だけは良いから、みんなより上の学校を目指せ――――その一点張り。
 あなたの顔を見ていたら気分が悪くなったので保健室に行って来ますって堂々と言ったわよ」

 そう言うと、糸倉は下品に笑い続けた。
 見た目が端整な顔立ちをしているから、見ていると結構驚く。
「本人には悪いけど、俺もあの数学教師すっげえ好きくなかったのよ。
 三原さん、ありがとう――――先生とっても嬉しいわ」

「しゃべるな、おかま」

 ――――頭が痛い。
 何年もコイツの猿芝居を見続けて来たせいで、外面用の言葉遣いもすっかり忘れてきたようだ。
 ま、当の本人はわたしが怒鳴ったぐらいで酷いわと言いながらレースのハンカチで目を押さえていた。
 女の格好をしていたら様になるかもしれないが、今日のコイツは男性だ。
胸がイラつく事この上ない。
「で、志望校はどこにするの?」

「志望? そんなの無いわよ、義務が終われば学生やっている必要性も無いわ」

「そんな!! 先生、三原さんの志望校に追っかけしちゃおうと思ってたのに!!!」

 泣き喚く糸倉に、一つのイコールが浮かぶ。
 いや、それ以前に色々と突っ込みたい事はあったがとりあえずこっちが先だ。
「もしかして、あんたわたしの制服姿が見たいから追っかけするつもり?」

「うん。
先生ね、三原さんの制服姿に癒しを感じていたの。
だって長い黒髪で長身の美少女なんて、希少価値高いじゃない!  桃園倶楽部に写真投稿しようかどうしようか悩んでたぐらいよ――――それが、高校に入って制服が変わるんでしょ? 素敵!」

 これでも五人の子供を抱えた愛妻家なんだから、日本が終わる日も近いだろう。
「制服か・・・」

 着飾った女の子、爪を赤く染めて頬に紅を塗って。
 信じられないような自分の姿。
「まだ十代じゃない。
もう少し学校と付き合ってもいいと思うわ」

 学校。
 また頭を悩ませる。
糸倉の声は気持ちに響いて何だか文句をいう気にもなれなかった。
「学校ね―――」

「そう、今の所が厳しすぎるからいけないのよ。
ね、こっちならどう?」

 糸倉は引き出しからパンフレットのようなものを取り出しわたしに手渡した。
 校名は帝都高校。
 三種類の制服が選べる自由な学校。
 ここから近いし、通学も便利でおかしな校則もない。
 何より、三つ編みにしなくていいのが今のわたしにとっては嬉しい事だった。
 が――――――――― 「理事長、糸倉麻紀ってあんたの事じゃない!!!!」

「ピンポーン」

 すぐさまパンフレットを投げ捨て、踏みつけ、手身近にあった花瓶の水をぶちまけて再び踏みにじる。
 ただのおかまにしては手強いと思ってたが、こうゆう裏があったとは最低だ。
「あうー、何もそんな事しなくてもいいじゃないの。


 しかし、パンフレットを踏みにじられて糸倉は諦めてくれると思っていたが、そう簡単に屈するような男じゃない。
 口では文句を言いつつも目はいつもの輝きを。
いや、いつも以上に輝いていた。
「これだけであんたが話を持ちかけるわけないわよね? 何、まだ裏があるんでしょ」

 えへへと笑いながら、糸倉は引き出しからもうひとつ写真付の紙を取り出す。
見知った顔、わたしが妹みたいに思ってる少女。
 今は別の学校に通っている、沙和子の姿がそこにあった。
「どうする三原さん?」

 お膳立てが多い。
 相手は何年も前から自分の学校へ入れることを考えていたんだろう。
 イライラする。
 ここが学校でなかったら、目の前に刃物があったら。
「賭けをしましょう」

 ふう。茶番に付き合って、わたしは神経をすり減らすんだろうな。
とひとりごちしながらポケットのコインを取り出す。
 宙で回転してから手の中へ、どちらが出るかはわたしも知らない。
 言い訳が欲しかったんだと思う。
 自分から進んで、ではなくコイツに強制されてという。
「裏か表か?」

 表と答えるコイツ。
 答えは決まっていた。
内心で望んでるわたしが居る。
 学校―か―――。
 現れた姿。
建物の書いてある部位。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ほっとする瞬間。
馬鹿なわたし。
 糸倉は喜んで、飛び跳ねて。
そう、わたしは落胆するふりをした。
「決まりね、願書にサインをするわ。
志望校は帝都高校」

「うんうん」

 学校―――――――――がっこうか―――。
 髪を拘束しているものを取り去り、黒髪を揺らす。
 嫌いな校則、必要ないもの。
 卒業、進学。
 必要無い、いらないわたしの時間。
 でも、わたしは賭けに負けて無理やりやらされているのだから。
いいの。
 タタリガミは消えてしまった。
大事なものは帰っていく。
 でも、わたしが居て。
空間があって。
気まぐれをしたくなる自分がいる。
「馬鹿なわたし――」

「えっ? どうかしたの三原さん」

「何でもない―――いえ、そうね。
わたしは三原さんじゃないわよ理事長先生」

 暑い夏が過ぎていく。
 冷たい氷水を飲み干した後のように、気持ちの靄が晴れてそれから―― 「わたしの名はミカだから、三原ではなく個人でもなくミカだから。
覚えておいて・・・」

 初めて自分から微笑んだ。
終わり 終り

中古同人ドラマCDソフト タタリガミのミカ ボイスドラマ




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