小説版「タタリガミのミカ」その4

中古同人ノベルソフト タタリガミのミカ

---------------------------------------------------------

詳細
 2004年小説版作成。当時のままのため誤字訂正等はありません。

 ゲーム本編とは関係ありませんが、ミカに繋がる物語です。

---------------------------------------------------------

ひとつのかげ

 ノッデ・ベリウスニシウム・オーフォルゴートは、常に命を狙われる存在であった、と古書には書かれている。

 彼女の生い立ちについては良く分からない。
 現国王が王位につく少し前に、どこからか拾われてきた娘だとしか、王宮の人々は知らないのだ。
 そのため、どこの生まれとも分からぬ娘と罵られ、貶されながらベリウスは育ってきた。
 ただ泣いて、シーツにくるまっているだけの少女だったら、人々はこんなにも苦労を重ねさせられる事もなかっただろう。
 身分が分からぬ者、とはいえベリウスは王族として本来持つべき気品と容姿の美しさを兼ね備えていた。
 そのため彼女は自分の置かれている立場を知りながらも、人々から不満を漏らさせないだけの力を持って居た。

「オーカス叔父様がまた何か企んでいるようね」

 細かな装飾が施されたチェアーにもたれながら、ベリウスは怠そうに話す。
姫君という表向きの顔がある ため、待遇はかなり良かっただろう。
部屋の広さは一般の家がすっぽりと収まってしまうぐらいであり、暖炉から は火が絶えることなく燃え続けている。
 テーブルからは、温かい紅茶と甘い蜜菓子の香りが漂い、着ている服はフリルをふんだんに使ったドレスだ。
 ただ、表向きの姿なだけであって、部屋から一歩出てしまえば扱いは───。
やはり平民のように接せられる。
「そうみたいだよ。
ベリウスが王族として暮らす事に、不満を隠せないんだろうね。
 まったく、そんな暇な事をしていないで陛下の手助けでもしていれば良いモノを。
 貴族思考かな? 僕も叔父様の考え方はキライだよ」

 ベリウスの義姉妹である、エリヴァルイウスという正当な王位継承者は、優雅な仕草で紅茶を飲み干した。
 帝王学に興味を示さず、城内でののんびりとした生活を好む彼女は、ベリウスにくっついてはおしゃべりに ふける周りにとってはとんでもない存在だった。
 もともと遅くに生まれた子供だったため、甘やかされた関係からベリウス寄りに育ってしまったのが原因なのだが ……それがまた、オーカスにとっては気に入らない事なようで。
 ───せっかく生まれた姪っ子に愛を注ごうと思えば彼女はベリウス寄りだ。
私はベリウスを消そうと思っている。
 それはエリヴァルに嫌われる。でも・・・などと悪循環を続け、ますますエリヴァルイウスに嫌われるという結果を導いている。
「何を仕掛けてくるのかしら?  それだけが退屈な王宮での、唯一の楽しみよ」

「でも段々、叔父様の手札が見えて来たけどね。今日渡された手紙もそのひとつかな?」

   飴色の髪を揺らし、大きく伸びをするエリヴァル。
 と。
小さなノックが部屋に響く。
 もともと来客の少ないベリウスの部屋だ。
入ってくるような人物は両親か、最近良く来るお貴族様だけだ。
「どうぞ、お入りになって」

 失礼するというかけ声と共に、扉が開かれていく。
 熊と呼ぶのが相応しいのだろうか。
そんな人物が、かなり不釣り合いな可愛らしい花を持って部屋に入ってくる。
 彼は最近、この部屋に入るのがお気に入りらしい。
「ご機嫌よう。ウヌマ様」

 ウヌマは、正確には王族では無く、親族というのが正しいだろうか。
彼の家は親戚筋の中でも名家と呼ばれるほどの  お家柄で、城内での発言力も叔父であるオーカスに匹敵するものがあった。
ただ、容姿だけは恵まれていないよう  で、山賊のような黒髪の少年が人形のように精巧な顔立ちの姉妹と会話しているようなモノだ。
「どうかなさいました?」

 ベリウスへの答えとして、ウヌマは花束を差し出した。
 まだ摘んで間もないのだろう。
ほのかに土の香りがして、桃色の花からは自然が感じられる。
 そして、手渡した格好のまま顔を紅潮させていった。
「失礼した」

 軍人か何かみたいな敬礼をして、ウヌマは部屋を後にした。
顔を赤らめたままなのを見れば、照れて逃げたのがすぐ分かる。
 ベリウスは彼の後ろ姿を見つめながらふふと笑った。
「思春期全開だね。あいつも分かりやすい性格してるよ、見え見えだもの。
でも、悪い気はしないだろ?」

「まあ。
それなりに、感動ってのもあるわよ。
私ほど、華美なものが似合わない女性に花束進呈ですもの。
それも毎日」

 また始まったよ。
とエリヴァルは小さく口にした。
たしかにベリウスは背丈もかなりあり、身体も鍛えられている 部類にはいるが、美的にまあまあの部類だろう。
 道を歩けば振り返られる容姿も持っているのだが、どうしても華奢でない自分に劣等感を隠せないでいる。
「美しい姉上だと僕は思いますけど。
そうでなかったら、誰も僻みませんて」

「はいはい、ありがと。


「ま、お世辞じゃないのはたしかだよ───っと。
忘れてた、お母様からこれを預かっていたんだ」

 胸元をごそごそと探し、朱色の綺麗な紙に包まれた手紙を取り出すエリヴァル。
やや強調されたラインを見せ られると、思わず自分の方を見てしまうのはベリウスの悪い癖だ。
「何、これ……」

「想像出来るけど、言わないでおくよ。
さ、開けてみて」

 言われるがままに封を切るベリウス。
 文面を見つめる彼女からため息が漏れるのを見て、にんまりとエリヴァルは笑った。
 お前をウヌマ様に嫁がせます。
「オーカス叔父様。
これで、ご満足?」

 細工の良い耳飾りが手に入った。
 その一言で不法侵入をしてきた叔父に、嫌みとも取れる言葉を投げかけるエリヴァル。
ベリウスと同じぐらい の広々とした部屋だが、こちらは簡素な家具ばかりが置かれ、装飾品といえば明かりだけという正反対な部屋である。
 その癖、エリヴァルは服やアクセサリーにこだわる方で、ごちゃごちゃといくつものネックレスを纏ったりもしている。
「彼女の事かね。
それなら姉上の───いや、陛下のご意志によるものだ。
もともとベリウスは親族側の嫁として引き取ったらしい」

「嫁か」

 これほどベリウスに似合わない言葉は無いだろう。
 衝動に耐えられず、エリヴァルは笑い始めてしまう。
「今まで、べったりだった姉が居なくなって寂しいか?」

「わざわざ離す努力をしていたんだろ。
僕が叔父様とあんまり話さないでるからって、それはどうかと思うよ」

「独占欲かな」

「さ、ね」

 ピンっとオーカスの額をエリヴァルは小突いた。
 婚礼。
 それほど私に似合わない単語は無いだろう。
 着飾って、たおやかな女になる。
 いやよね、そんな私は。
「そっか、そういうことね」

 離れて初めて気がつく、私の恋心。
 妹と思っていたエリヴァルに私は思慕していたんだ。
 変な感情と笑えてくるが、それでオーカス叔父様が私を恨んでいたという理由も解り、落ち着けてしまった。
「もう、髪を伸ばす必要も無いかもね」

 薄紫色のふんわりとした髪を持つ私は、その髪が大嫌いだ。
明るい色のエリヴァルと比べられるから。
 もう少し伸びたら染めようと思っていた。
 エリヴァルと同じ色に、エリヴァルと姉妹に見えるように、こんな私でも、好いてくれますように。
 もう終わりなのかもしれない。
私は人の妻に、あの子は自由な場所へと。
 時間は巡ってしまった。
私達の場所には、ただ居たという痕跡だけが残される。




top