「彼方からの呼び声」シリーズ

その1


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詳細
 2004年小説版作成。
当時のままのため誤字訂正等はありません。
 REGESTというゲームの番外編です。ゲーム本編とは設定が異なります。

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彼方からの呼び声

 私は町の洋品店の店主に獲物を渡すと、にこにこ顔で商談を始めようとした。
 旅も数日経過。
 それにともない路銀も減っていく。
 気持ちに寂しさを感じていた私は、近くの森でバスタードソードをぶんぶん振り回して子鹿を手に入れ、 お肉で少々腹を満たして毛皮を売買でるんるん気分になろうなどと幼稚なことを考えていた。
 子鹿の肉は、やや痩せ気味で美味しくはなかったが、こうして私の血となり肉となり小銭になるのだから感謝である。
「いかがですか? 毛並みは結構なものだと思うんですけど」

 私はうきうきしながら、中年太り店主の査定を待つ。
どう見ても、安く叩かれそうな古い店だったが、 この際文句も言ってられない。
 値段を言うかと思いきや、中年太りした店主こと店のおばちゃんは何故だか悲鳴を上げて走り出した。
 何事かと私がぼけっとしていれば、いつの間にやら役人らしい人達がおばちゃんと共に店に入ってきて、私に向かって叫んだ。
「死刑だ!!」

 最初は何かの冗談かと思った。
   しかし、役人はすさまじい勢いで私を捕縛してどこぞへと連れていく。
「ちょ、ちょっと何なわけ!」

 当然の悲鳴と抗議を大声で上げる私の耳元では、「ばち当たりが」

とつぶやいている人が居た。
誰かと思えば、さっきのおばちゃんで、よく見れば私が持ってきた毛皮を必死で拝んでいる。
 ますます訳が分からなくなった私は、なんとか逃げられないかと暴れてみた。
「おとなしくしろ!」

 やはり、女の身では縄をぶった切れない。
 油断もあったため、縄は的確な場所を押さえて縛られているので、私がちょっと暴れたぐらいで外れることはなかった。
「普通、死刑だって言われておとなしくするはず無いでしょ!」

 縄をさらにきつくしようとする役人の顔を私は何度もけっ飛ばす。
しかし、暴力に負けずともう一人の 背の高い方の役人は私の足を縛り付けた。
 剣に手が届けばと今頃になって手探りを始めるのだが、固定されてしまっている腕は自由が利かない。
「離しなさいよっ!」

 身動きがとれない私を役人達はおばちゃんが持ってきたらしいロープを使ってグルグル巻きという 表現が正しい形に縛り、私は形の悪いエビフライみたいになって、役人に担ぎ上げられた。
「よりにもよって、お前は鹿様を殺したんだ! 死刑でも軽いくらいだっ!!」

 これは冗談やお芝居ではないらしく、役人の口調は怒気を放っていた。
「わけが分かんないわよっ! 何よ、鹿様って?」

 それでも暴れる私に痺れを切らした役人は、私の首筋に強い当て身を食らわす。
   軽い手投と思いきや両手で殴りつけたようで、痺れるような痛みと共に私の意識は無くなっていった。

 ふと気がつくと、そこは檻の中だった。
 先ほどのロープこそなかったが、これは典型的な囚われの身というヤツである。
 これで場所が湿っぽい地下室みたいなとこでなくて、これから美形のお兄さんが迎えに来てくれる のならばシチュエーションとしては最高である。
 けれど、かっこいいお兄さんがほいほい私を助けに来てくれるほど世の中は甘くない。
 脱出するとしたら、自分の力を使うしかないのだが、見れば鉄格子も壁も頑丈そうで、脱出には手間がかかりそうだ。
 呪文をバンバン使えばこんなもの抜け出せるのだが、すぐに警備の人間に気づかれそうである。
手探りしてみれば予想通り、剣も隠しナイフも取り上げられていた。
「災難だったな」

 低い声の男が鉄格子越しに声をかける。
 ゆっくりと男は格子に近づき、たいまつに照らされて顔が見えてきた。
 身なりの感じから結構な身分の人間であることは分かる。
でも顔はちょっと優男入っていて好みの感じではなかった。
 好みだったらどうするか?  そんなもの、抱きついておねだりしてしまうに決まっている。
「私は領主の警備隊長ウルラン・フォード。
君は?」

 短く切り揃えられた黒髪が揺れ、鉄棒の間から手が伸びてきた。
 握手を求めるなんで図々しい。
「無礼な国の者とは、握手をしない主義なの。
でも名前だけ言っておくわ、私はガナティア。
片田舎からやって来た、ただの旅人よ」

「それはすまなかった。ガナティア」

 ちょっぴり寂しそうに、ウルランは手を引っ込める。
「ま。この国では、銀髪なんていないしな、こちら側のルールを知らないのは分かっていたんだが、やっぱり死刑だそうだ」

「はぁ?」

 死刑なんて冗談ではない。
 私はまだ17歳。
花の乙女を味わっているというのに、こんなとこで人生を終わらせたら今までの私が阿呆みたいである。
  「どういうわけ?」

「簡単に説明すると、我が国シュクラムには守り神が居る」

「知っているわ。聖竜でしょ」

「そう。人々は聖竜様を信仰している。
 聖竜様の命に従い、聖竜様の助けを求める。そんな大事な聖竜様の使いとされているのが鹿、なんだ」

「鹿?」

「鹿は聖竜様の最も愛する動物で、この国の人々は決して鹿を食べようとせず、鹿が目の前を通ると御辞儀をする」

「何、それ。私はそんな、聖竜だかなんだかが好きだとかいう理由で処刑されなきゃならないってーの?」

「その通り。たとえ、それが誰であっても。移民してきた私にとっては、疑問の残る法律なんだけども私が どうこう言っても死刑は死刑だから」

「納得いくわけないでしょっ!」

 私は鉄格子を叩く。もしもこの男が牢の中にいたらひっぱたいてやりたいところだ。
「うん。まあ、そうなんだけど決まったことだから」

「だいたい何? 鹿を崇めてるですって! そんなの分かるわけ無いじゃないの。
まして、私は 昨日この国に着いたばかりなのよ!」

「運が悪かったと思ってください。ってことで納得してくれ」

「あのね、それで話が通じるはず無いでしょ。そんなに鹿が大大大好きなら、馬も一緒に拝み出すといいわ!  馬と鹿で馬鹿の国。傑作じゃないの!」

「・・・・君の考えはどうでもいいんだが、とりあえず明日死刑だから牧師呼んだから」

 私があれこれギャーギャーと抗議を始めると、ウルランはおーいと後ろにひかえていたハゲの親父を呼びつける。
「懺悔を聞きましょう」

 一応、彼が牧師ならしい。
 私の目にはただのハゲたおっさんにしか見えなかったが、それなりの徳はあるようだ。
 徳はあると言っても、やっぱり農家っぽいおじさんに聖書持たせただけにしか見えないが、どちらにせよ 死刑囚に金をかけるお偉いさんは居ないのだからとりあえず自称牧師に祈った。
「犯した過ちは、やがて許されます」

「牧師様」

 自称牧師様の頭が輝いて見える。
 ああ、まばゆいばかりの光だ。
 油でも塗りたくっているのか、チカチカと輝きを放っている。
 感動のあまり、私は涙ぐんだ。
 って、待てい。
 こんなところで、ハゲのおっさん拝んで死ぬのは悲しすぎる。
 私は思いきり自分の頭を殴りつけて冷静を取り戻した。
「ど、どうしたのです?」

「牧師様。私の命は明日でついえます。
でも、その前に私の罪を償いたく思います」

「と、いいますと」

「どうか。どうか死ぬ前に聖竜様に会わせてください。
お詫びをしたいのです!」

 私はめちゃめちゃ罪を感じている囚人のふりをした。
業界用語では、お釣りも返してあげるよと言う意味だ。
 単純なウルランと牧師は、涙ながら首を縦に振り続けた。

 ぴちょんぴちょんと天井からは水滴が漏れていた。湖が中にあるのか、雨水がたまっているのかはよく 分からなかったが、案内された洞窟は湿気が多くて過ごしにくい。
 こんな場所に住んでいる聖竜は、さぞかし性格が悪い竜に違いないと私は決めつける。
 だまくらかして、悪の元凶の元へ連れて来させたのは良いものの、やっぱり私の手には縄がプレゼントされていた。
 そしてその縄は、ウルラン隊長へと伸びている。先端部分は彼の手に縛り付けてあった。
 イヤな事に離れられない関係になっている私達は、二人きりという地獄の亡者も泣き叫ぶ過酷な環境の中を歩き続ける。
 しかも、ついでだから聖竜様の前で処刑しなさいと領主は言ったそうだ。
 後で血祭りに上げるのはこいつだと決定付けた私は、ウルランの方を睨み付けた。
 さらに領主は、どうせ殺すんだから好きなようにしていいよ。とまで言ったそうでウルランは入浴まで済ませて居るそうな。
 もはや、煮えたぎるこの思いを誰から最初にぶつけてやろうか? である。
 とはいえ、ここまで来れたのは私にとってとても好都合なことだった。
 ここから逃げようと思えば、二人きりになった時点でウルランをバシバシひっぱたいて、攻撃呪文 を浴びせかけて消し炭にしてしまえば簡単なのだが、それをしようとせずに奥深くまで来てしまった。
 複雑なこの洞窟を案内無しで逃げるのは無謀というもの。
 何故しなかったかと言えば、私はもともと、この国に来た理由が聖竜関係だったからだ。
 私が一人旅をするのには理由がある。

 母親。

 そう、私の母親が我が儘で欲しいものを娘の私におねだりしてくるのだ。
 そんなの断ればいいと思うだろうが、棘付きのブンブンやら、拷問用のムチを片手にされたら文句も言えない。
 商品名だけを告げられて、私は日夜地図とお友達な日々を続けている。
「まだ時間がかかるの?」

 いい加減、同じような景色ばかり続いていたので私も飽きてきた。
 そのたびに、もうすぐだとウルランは言うのだがいつのことやら。
 そろそろあくびが出るかなと思っているとようやく柱のようなものが見えてきた。
 年代物の大きな門が登場し、私達はそれをくぐっていく。
 さあ、こっからが聖竜君の登場だ。
 私は大きく息を吸い込み、目の前に広がる湖を見つめた。
 だんだんと水面の中心から波紋が広がり、怪獣とか名前が付きそうな生物が姿を現す。
 はっきり言って、聖竜と崇められているのはお門違いだと私は確信した。
 大きいことは大きいのだが、巨大なうす紫色の竜としか見えず、神秘的だとか美しいだとかは全く感じられない。
「聖竜様。罪人が懺悔をしたいそうです」

 ウルランが丁寧なお辞儀をしたため、私もつられて下げたくもない頭を下げる。
「うむ」

 満足げに流暢な人間の言葉を話す聖竜。
 何だかだんだん腹が立ってきた。
「聖竜様お聞きください!」

 私はとりあえず懺悔っぽいものを始める。
「私は、ガナティアという名を持つ者。十七の年月を生きた女。崇め奉るべき聖竜様に、祝福の言葉を」

「言ってみるがよい。罪人よ」

 鹿を愛するという変な趣味を持つ聖竜は、機嫌を良くしたのか顔をほころばせる。
 その顔がひきつるのも、もうすぐだ。
「あなた様は、まさに黄砂の果てに蠢く力を持つ者、封じられし神」

         「何を褒めているのか分からぬが」

「永久の契りの名の下に、汝をも滅するその力を授けたまえ・・」

「召喚術、この女。魔術師か!」

「せ、聖竜様」

 うろたえるウルランだったが、呪文は完成してしまっている。
 さあ、聖竜と呼ばれているドラゴン。
 あなたは生き残れるかしら? 「さあ、購うことを許されぬ醜き者よ、汝の力を召喚せし」

「殺せ。その女を殺すんだウルラン!」

「無駄よ。すでに呪文は完成しているわ」

 ウルランを後ろに追いやり、私は奪った彼の剣で縄を断ち切り印を結ぶ。
 砂埃が舞い起こる。
 その砂達は私の周りを守りぬくため、光術を浴びせかけた聖竜の底力は針に刺されたほどにも感じなかった。
そうして砂はゆっくり回転して、聖竜目がけて飛び込んでいく。
 まとわりついた砂ではダメージが無い。
 しかし、私が再び印を切るとその砂は有害なものへと変わる。
黒く変化した砂は聖竜の血に染まり、赤く変わっていく。
「せっ、聖竜様!」

 叫び声が洞窟中に響く渡ると、私は辺りを物色し始めた。
「あった!」

 お目当ての品は、聖竜の宝樹。
 外見が聖竜ぽくなかろうと、母親に黙っていれば問題ないので任務完了だ。
 綺麗な樹木を懐に納め、私は笑った。
 さあて、あとは領主をぶちのめすのみ! 「君は、いったい?」

 ウルランは不思議そうに私を見つめる。
 この国は、魔法が発達していないから魔法が使える私が珍しいようである。
「見せ物じゃないわよ」

  「そうか。東の国では不思議な術を使う者が居ると聞いたことがある。その力で聖竜様を倒したっていうのか?」

「ええ」

「なんて、愚かなことを!」

 ウルランは、虚ろな瞳のまま床に崩れ落ちる。
一応、彼にとっても聖竜は信仰の対象だったようだ。
「聖竜様は、千の術を操るブラックドラゴン刃を向けた者は容赦なく破壊して、辺りを荒野に変えてしまう。
恐ろしい魔物」

 はい? 「ちょっと待って。んじゃあ、この国の人は信仰しているのでなくて、こいつを恐れているからこんなにも反応が大きいの?」

「ああ」

「子鹿を愛するって、ひょっとしてこいつの食料だから手をつけるなって意味?」

「その通りだ。子鹿をお前に食べられて、聖竜様はたいそうお怒りだった」

 私は頭を抱えてしばらく悩み始めた。
 ということは。
 つまり、これから刃を向けた私に襲いかかって、ついでに国を滅ぼす。
「小娘!」

 さきほどの呪文のせいで、片目を失ったらしい聖竜とやらはタイミング良く復活する。
「ちょっと、最初に言いなさいよ!」

 笑ってごまかせるレベルの問題では無い。
   私とウルランは、出せる限りの力で洞窟を抜け出そうと試みる。もはや、国が滅ぼうがなんだろうが、 自分が助かればいいやという意見が二人とも一致したためであり、逃亡に関して二人のダブルプレーは完璧だ。
「さっきの呪文で倒せないのか?」

   さすがに息が上がったらしいウルランは、冷や汗混じりで聞いてくる。
「無理無理。さっきのが私の最強呪文よ!」

「無鉄砲、効かなかった時を考えろ」

「そんなこと言ったって、ブラックドラゴンが相手だったなんて誰も思わないわよ」

 ブラックドラゴン、一言で言うなら、お子さまや有能な剣士は近づかないように。
 ちなみに、私じゃありんこがゴリラに戦いを挑むようなものである。
「ま、まだ外に出られないの!」

 一度くらいで、出口を覚えられるほど私の頭は良くできていない。
 そのため、行きと同様にウルランの道案内で外を目指していた。
「この角を右に行けばすぐに出口が見える」

「分かったわ」

 言われたとおりに、私達は角を右に曲がって出口を目指す。

「違うわね」

「違うな」

 目の前は、分厚い岩肌に覆われている。
 後ろからは、黒い魔物が迫り来る。
「もしかして、行きは右に曲がるのが正解だけど、帰りは左に曲がるのが正解?」

「たぶんな。っ・・」

 私はウルランの脇腹にけりを食らわす。
「わ、私を攻撃している場合じゃないだろ」

「あ、あんたね。この状況で道を間違えるんじゃないわよ!」

「動揺してたんだ」

「どうするのよ、敵は目の前よ!」

 私が頭をひっぱたくと、ウルランは数秒ぐらい悩んで、襲いかかろうとしていたブラックドラゴンに丁寧な礼をする。
「ブラックドラゴン様。どうか、お怒りをお沈めてください」

「ならん!」

 げしっと吹っ飛ばされ、ウルランは壁に何度も頭を打ち付けて動かなくなる。
「あっ、当たり前でしょうが、意味無い行動をしないでよ!」

 ブラックドラゴンは私の顔をじっと眺めて冷ややかに笑い、どうやら上に皮をかぶっていたようで、 脱皮のような姿勢のまま、さっきまでのうす紫色の皮を脱ぎ捨てて、黒光りした本来の姿になる。
「よくも、よくもやってくれたな! もはや殺すだけでは気が済まぬ」

   会ってすぐの一撃は、かなり軽いものなのだろうが私にとっては大ダメージで、吹っ飛ばされるレベルのものだった。
「うぐっ」

「苦しむがいい、お前には死を与えず、永久の苦しみにまみえさせてやる」

   冗談ではない。
 しかし、こんなドラゴンの一匹と言えるほど私は強いものではない。
 何か、方法が・・・。
 続いて第二打がやってきた。
 衝撃で衣服が一部破れ、持っていた剣もどこかに飛んでいってしまう。
 胸元辺りをやられたらしく、私の身体からは血があふれ出ていた。どうやら、肋骨も何本かだめになったみたいだ。
 眼前に、ブラックドラゴンの前足が迫り来る。不意に、帰りを待つ母親のことが思い浮かび、 これが死ぬ瞬間なのねと笑ってしまう。
「そうだ!」

 ふと思いだし、私は宝樹を取り出した。
 昔、どこだかで聞いた知識が思い出される。
「宝樹は、ドラゴンにとって大切な薬。そのドラゴンが住んだ場所にしか生えない、薬でもあり、刃でもある」

 確率は低い、でも何もしないよりはマシだ。
 私は目を見定める。
 狙いはもう片方の目。
これさえなくなれば、ドラゴンは光を失う。
 光がないドラゴンは、弱いドラゴン。
 そこを、攻撃してあげれば勝機は生まれるかもしれない。
 ただ、もしも宝樹が効かなかったら。
 その時はその時。
「お願い、効いて!」

 私は瞳目がけて宝樹を突き刺す。
 通用しなければ最後。
効けば・・・。
 つんざくような悲鳴が聞こえた。
 それは、生命の終わりを悟ったかのような絶叫に近いものだった。
「き、効いたの?」

 ドラゴンは苦しそうに目を押さえている。
 今だ!
「契約を告げる!」

 私は召喚契約の呪文を使った。
 ドラゴン相手に通用するものではないが、今の状態ならば可能だ。
というより、私にはこんな、 光を失ったドラゴンでも倒すことが出来ない。
情けない話だが。
「汝は我に従い、我に刃を向けず、我に忠誠を誓い、我の呼びかけに答えよ」

 圧力のようなものが、ブラックドラゴンを押しつぶす。
 大きな風が巻き起こり、ドラゴンの力が徐々に減少し始める。
「成功、した」

 私の右手には、ドラゴンを意味する十字のマークが焼き付けられた。

 ドラゴンは封じられた。
 とはいえ、それで国の人々の警戒が和らぐわけもなく、外に出たとたん私は人々に追い回され 足早にこの国を後にすることにした。
 無理もない話なのだが、腹がたつ。
 倒したといえ、死体があるわけでもないし、証人のウルランは邪魔だったのでそのまま洞窟に放置しておいた。
 そのため、聖竜が居なくなった後も、この国は聖竜の国となったようである。
 まあ、お国事情と私は関係ないが、今度から野宿をする時は熊を食べようということが私の中で決定付けられた。
 縛られるのは、その趣味の人達に出くわした時だけで充分だ。
「で。
どういうわけなのかしら?」

 振り返り、私は木の影に隠れていた男性に声をかける。
 もちろん、彼はウルラン。
 ただし、今度は少し古くさいマントを羽織っている。
「いや、だって。気絶している間に隊長の職を解かれてしまったみたいで、無職だし」

 ウルランの話に私は苦笑いをした。
「で。どうして私の後を追っかけるわけ?」

「方向が、たまたま一緒なだけだ」

 その言葉には、隊長をやっていた時の威厳らしさのかけらもなかった。
「ったくもう、隣の国までなら一緒したげるわよ。
それでいい?」

「いや、助かったよ。私が気絶している間に凶悪犯を五人ほど逃がしてしまって、罰金を取られて無一文なんだ」

 つまり、ちょっと見ない間にヘマをやったということなのだろうか?  二日もたっていない気がする。
 ちょっとだが、この国の警備事情に興味を持ってしまった。
「ツケでよければ、出してあげるわよ」

 私はしばらくの相棒に腕を回し、少しの間二人きりの旅をしてみることにした。

終わり
   


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