「彼方からの呼び声」シリーズその3


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詳細
 2004年小説版作成。
当時のままのため誤字訂正等はありません。

 REGESTというゲームの番外編です。
ゲーム本編とは設定が異なります。


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炎の秘石

 逃げるように私は駈けだす。
 風が私の味方をしてくれているようで、足取りも軽い。
 よっしゃあ!!
 変なおじさんは追っかけて来ない、私の胸は高まる、私の心は安まる。
世界はバラ色に変化する。
 前回の旅で、優男ウルランに付きまとわれた私はしばらく二人で旅を続けるが、そのダメっぷりに呆れかえり逃亡となった。
 金貨と銀貨の違いが分からない大人も珍しいが、そんな希少動物とつき合う気もない。
 だいたい、次の街までと約束したはずなのに、どうしてあの男は・・・。
 ま、そんなことは記憶忘却ということで。
私は私の世界を歩み始めた。
 ───が。
   幸せというのは、簡単に消滅するモノだ。
 今ほどそれを実感出来た日は無かっただろう。
 炎の国インフェルノに着いた私は、早速アクセサリーショップを物色していた。
 あら、年代物の指輪があるぞとウキウキしている私。幸せな時間である。
 そして、それは一枚の紙で打ち破られる時間でもある。

 1,欲しいモノ この国の守護石ファイアーストーン
 2,場所    この国のどこか
 3,付記    特にない

 その紙には、ただそれだけが書かれている。
「マイマザー光臨───」  そして私の冒険は始まった。

 この国の守護石ということは、国王よりも大事ということだ。
 私は依頼書を見ながら自分の頭を2,3度殴る。
 業務内容 命令は実行しなくてはならない。
 その結果 実行したら確実に手配書が廻ってしまう。

 そんな葛藤を受け止めてくれるだけの人々は私の周りに居ない。
 ここらへんでカッコイイ紳士とかが手助けしてくれると有りがたいのだが、どういうわけか私の周りにはウルランのような人物しか存在しないのだ。
 自分の男運の無さを呪いながら、とりあえず計画を練り始める。
「お姉さん。これ、落としましたよ」

「あら、ありがとう」

 さぞ今の私は阿呆な姿だっただろう。
私は顔を赤くしながら親切な少年から、依頼書を受け取る。
 それにしても、目の保養になる美少年だ。
 金色にも、銀色にも見える色素の薄い髪の子で、長く伸ばしているためか中性的に見える。
 耳が少し長いし、エルフ族の子みたいだ。
 エルフっていうのは簡単に言えば、森の人。
 自然を愛し、音楽にも長けた精霊のような人種。
 加えて、容姿はずば抜けていて、彼のような美少年も珍しくない。
 私も密かにエルフの美青年を狙っていたりする。
「大変だね。
ファイアーストーンを奪うの?」

 エルフの少年はマントにブーツという旅人の格好をしていた。
 内心、この国の人かとも思ったが、どうやら違うらしい。
「そうなのよ。守護石だから大変でしょ───って」

「お姉さん。泥棒なんですね」

 っててててて。
 私は少年の手首を掴んで、人気の無い路地裏へと引き込んだ。
「ちょ、ちょっと今の紙読んだの!!!」

「うん。読ませて貰った」

 怯える様子も無く、少年はにこやかに微笑んだ。
 普段なら、まあ愛らしいわねとお菓子の一つでも与えていただろうが、ここはそんな状況では無い。
「読ませて貰ったって、あんたどうするつもり?」 「うん? 役人に引き渡したりとかしないよ。
僕、旅の途中だからこの国に関係してないし、興味ないよ」

  「そう、そうなの。じゃあ、お姉さんがこれからやる事にも興味無いよね」

「お手伝いしてあげるよ」

「って、興味あるんじゃないの!!!」

 私の激しい激高も、この少年には通用しないようだった。
 いつまでも子供独特の愛らしさを保持し続ける。
「あっ、そうだね」

「そうだねじゃないわよ!!」

「手伝うってば、僕たち3人で守護石奪おうよ~。ちょうど退屈してたんだから」

 ちょっと待て、3人って・・・。
 私は慌てて後ろを振り向いた。
 いや、見たくない。見たくないんだけど、首が勝手に動く。
 とそこには、「よっ、ガナティア」なんて言っている優男の姿があった。

 話を纏めるとこうだ。
 ウルランはお金が無かった。
だが、お腹がすいたからって食堂に入った。
 だが、お財布にはお金が入っていなかった。
 結果、近くに居た少年に助けを求めた。
 自分にお金がない事を告白し、今この国に連れが居るからそいつから貰ってくれと少年に話した。
 そして、私を見つけ出した。

「子供に金借りてるんじゃないぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 スパコーンと手身近にあった石でウルランを殴り飛ばす私。
「まあまあ」

 窘める少年の頭を撫でながら、私はウルランに貸したというお金をすぐに支払った。
「ありがとうございます」

「とりあえず、力が必要だったからお世話になるわ。
私はガナティアで、こっちがウルラン」

 私はただの旅人で、ウルランは変な人よと紹介すると、その変な人から苦情が来たが無視をした。
「僕、セイルって言います。セイル・ブラックです」

「了解、セイル君ね。これらかやることは犯罪だけど平気?」

「あっ、僕の本業は盗賊なんで、全然平気ですよ」

 可愛い顔して、堂々と悪行を口にする。
 コイツは結構な小悪魔なのかもしれない。
「犯罪って何の事だ? 事によっては役人に突き出すぞ」

 常識ぶってるウルランが極めてまともな台詞を吐いた。
 クビになった人間が何を言う! と、どつき倒して私は依頼書を見せた。
「何だ? このいい加減な指示は───」

 その意見には激しく同意する。
「お母様からのご要望でね、捕ってこいだって。そんな命令聞かないってのが普通なんだろうけど、命令無視には死あるのみが我が家の家訓でね、いつも犯罪スレスレの事をやらされているのよ」 「立派な犯罪だと思うが・・・」

「知らないわ」

 私は懐から麻縄を取り出して、ビシッと二人の前で音を鳴らす。
「逃げないわよね。当然よね。当たり前よね、人としての義務だもんね。私、ものすごく苦労しているのよ」

「は、はい」

 守護石を保管しているのは炎の神殿。
 場所は観光マップ───というか掲示板に書かれていた。
 土レンガを組み合わせて作った簡素な神殿で、守護石というより博物館みたいなモノだ。
 入り口に管理人らしき人が居る以外は、誰も中に入ってこない。
 中に入るのは結構簡単である。入場料を払えばいいのだ。
「なんか、随分簡単に盗めそうだな」

「拍子抜けしちゃうわね。凄いモンスターが見張っているとか、結界が幾重にも施されているとかを期待していたんだけど」

 もともと観光名所にもなっているため、ファイアーストーンを私なんかでも自由に見る事が出来た。
 保管もクリスタルケースに入れられているだけで、ちょっと魔術を使える人なら楽々入手出来る。
「でも、怪しくない? 盗んでくれと言っているようなもんだよ」

 セイルは真面目な顔つきでケースに入った赤い石を見つめる。
 言われてみればたしかにそうだ。
 守護石と呼ばれる程の秘石を、こんな場所で保管するのか?
「とりあえず、開けてみろよ」

 ふむ。
 ウルランに促され、解呪の呪文を唱えてみる。
 ほとんど抵抗らしい抵抗もなく、ケースは開いた。
「えっ?」

 そして足下が消失する。
 あっやっぱり罠だったと気がついたのは、地面で尻餅をついてからの事だった。
「痛ったぁぁ!!」

 落ちた先は洞窟か何かのようだ。地下水でも流れているのか、ピチョンと小さく水音が聞こえる。
 それにしても暗い。何だか気持ちも落ち着かなくなりそうである。
「あー。
地面があるって嬉しい」

「ど、どけ。重い・・・」

 ウルランを下敷きにしていなかったら、かなりお尻が腫れ上がってしまっただろう。
 こういう時は非常に便利である。
「あれ、セイル君は?」

 右左と見ていても彼の姿は無い。おーいと一声かけてみると、上の方で小さな声が聞こえた。
「セイル君。無事だったの?」

「はーい何とか。そっちは大丈夫ですかー」

 洞窟にセイルの声がこだまする。
 やっぱりエルフなだけあって、声も可愛い。歌とかうまそうだ。
「怪我とかは無いけど上に上がれないと思う」

「じゃあ、誰か呼んで来ましょうか? って、僕たち泥棒なんだっけ。それはまずいか・・・・」

「それはマズイ。みんなで逮捕よ」

 かなり下に落とされたようで、セイルの姿は小さくしか見えない。
 距離的に3mぐらいだろうか。ちょっとジャンプして戻れる高さではない。
 だからって登れるはずもなく、ためし触ってみれば、苔か何かが生えているようでロープでも無ければ登れそうにもない。
「うん。それじゃあ、何か考えます」

 セイルの顔がひっこむと、私は状況を整理してみた。
 なんか、いつものようなパターンが開始されるような気がするが、出来ればそれは避けたい。
 いつもの展開だと、なんか強いモンスターとかが居て、死にそうな目に遭うのだ。
「助けが来るのか?」

 ちょっち疲労困憊気味なウルラン。
 助けを求める前に、自分で何か考え出して欲しいモノだ。
「たすけ……ね。予想するわ。完璧にいつものパターンよ!!」  そうだ。間違えない。いつものパターンなら、今頃私の後ろには。
 はい。居ますね。
「はぁぁぁ。やっぱり、マイマザーの依頼だから」

 そこには10mは余裕であるだろう、赤い怪鳥が現れた。
 今回はブラックドラゴンと違い、非常に綺麗なモンスターである。
 炎の鳥とでも言うのか、赤い羽根は宝石のように美しく、瞳はキラキラと輝いている。
「だからって、私の味方じゃなければ勘弁よ!!」

 早速第一打が放たれた。
 予想通り、炎系のモンスターらしい。
 私が使える術のほとんどが炎の精霊関係なので、術はすべて無効化。
 絶体絶命である……が?
「ウルラン。何やってんの」

 ふと見れば、ウルランは土下座して命乞いをしていた。
 情けない話だが、状況を見てからやって欲しい。
「あっ」

 ゲシっとウルランは踏みつぶされた。
 死んだかなとも思ったが、ピクピク動いている所を見ると、かろうじて生きているようだ。
 ちっ。
「この運動能力……モンスターと思ってたけど、聖獣クラスの化け物みたいね」

 聖獣というのは、力の強いモンスターの中でも崇められている存在だ。
 はっきり言って、強い。
「逃げるしか無い。逃げるしか無いのよぉぉぉ!!」

 私の絶叫が辺りを轟かす。
 どうやら、この聖獣が本当の守護石のようだ。正確には獣か。
 まあ、どうでもいいが、私はウルランを無視して逃げまくるしか無い。
「インフェ。お手」

 聞き覚えがある声がそう言うと、聖獣の動きが止まってしまった。
 あれほど暴れ狂った聖獣は、キイーキイー嬉しそうに鳴きながら前足をセイルに差し出す。
「なんだ。インフェってば、しばらく姿を見ないと思ったら、こんな所に居たの?
 そろそろ帰らないと、夕飯だよ」

「あっ、あっ、あなた……」

「あ、お姉さん。無事だったんだね。あの、良く考えてみたら、僕は空飛べたんだよ。面倒だからこっちに来ちゃったんだけど」

「来ちゃったって・・」

 こっちの葛藤はほっといて、セイルはにこにこ顔を維持している。
 状況説明が欲しい。
「あ、そうそう。お姉さんが探していたのって、これでしょ。もう飽きたからあげるって」

 聖獣の足下から赤い石を拾い、私に手渡す。
 っと、聖獣の大きさがみるみる小さくなり、普通の小鳥サイズへと変化した。
「さて、アリアちゃんとこでご飯食べよーっと」

 こっちの波乱もそのままに、セイルと聖獣はマントを揺らしながら空へと旅立っていく。
「あの。ちょっと待って───ロープも無しに、ここから出られないわよ」

 遠くへと旅立つ人影は、私の言葉を聞き取れなかったようだ。
 どこかへと影が消えていき、やがて消失する。
「っと、考えてみれば」

 懐をもそもそすると、ウルランを脅すときに使った麻のロープが出てきた。
 強度も問題ないし、引っかけになるような剣も持っている。
 私はショートソードを縄の先端にくくり、それを光が出ている穴へと投げる。
 縄を引っ張り強度を確認すると、私はするすると登り始めた。

 あっ、ウルラン忘れてたけど別にいいか───。
 終わり



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