「彼方からの呼び声」シリーズその4


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詳細
 2004年小説版作成。当時のままのため誤字訂正等はありません。
 REGESTというゲームの番外編です。ゲーム本編とは設定が異なります。

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闇からの賛歌

「ねえ、ティア!」

「何、マイマザー」

「これよこれ、これが欲しいの」

 マイマザーは棘付きの棍棒片手に、資料のような物を渡す。
「お願いね」

 二人の間に拒否権という物は存在しない。
 こうして冒険は始まった。

「もうイヤだぁ、こんな生活」

 私は安食堂の古くさいテーブルに顔を埋める。
 溢れる涙を拭いて、泣かないでお嬢さんと語りかけるような美形も居ない。
 可愛そうに、これで何か食べなと言ってくれるおばさんも居ない。
 私の前には、30代前後のやさ男がじゃがいもを頬張っているだけだ。
 男運無い。絶対に無い。
 きっと私は男運の神様に見放されてるんだ。
「そう、しょげるな」

 そのやさ男、ウルランは私を一瞥する。
 旅の途中で知り合った彼は、元々警備隊長という結構な役職に就いていたのだが、ヘマをしでかし、私に付きまとって迷惑ばかりかけるヤなヤツである。
 何度か付きまとわれて、いい加減あきらめた私は、コンビということで日雇いの仕事をして彼と生活している。
 本音は、もっとカッコイイ男のが良い。
 だが、世の中は・・世の中は。
「で、お袋さんは何だって?」

 むぅ。
 私は資料をそのままウルランに見せる。

参考資料
 1.願い 聖魔教団の歌本を取ってきて☆
 2,場所 ケスト国のどこか
 3,形状 しんない

「ま。頑張れ」

「頑張れって、あんたも手伝うに決まってるんでしょ!」

「そーかー」

「そーかって、もう。とりあえず、私のために働いてちょうだい」

 やれやれ。
 これから、何が起こるのだろうか・・・。
 とりあえず私はコーヒーを一口飲んで心を落ち着ける。
 ああ。変なモンスターが出てきませんように。
 ああぁ。怪しい趣味とかの司祭が出てきませんように。
 聖魔教団を怪しい宗教団体と決めつけた私は、まだ食べ終えないウルランを引っ張りつつ食堂を後にする。
 ウルランがまだ食べてないヤツ、あんまり美味しくなかったからね。

「何で、まともなのよぉぉぉぉ!!」

 やっとのことで聖魔教団を探し出した私達は、その教義のまともさに涙を流す。
 窃盗するのっても、普通の宗教団体から盗めるか?
 これが裏で人身売買をやっているのなら、盗んでも胸は痛まないが、奉仕作業などをやっているまともな人間から奪うなんて、ちょっとそれはまずいでしょ、おっかさん。
「ガナティア・・・お前、この人達から何か分捕るのか?」

 あっ、ウルランまでまともな事言ってるよ。
「うぅぅぅ。やりたくない」

「そりゃ、そうだ。これで捕ったら極悪人」

「しぅぅぅぅっ!」

「人間の屑だな」

「うう。や、やっぱやめようかな・・・」

 と思った瞬間。
 ズドドドドドン  と私の目の前に何かが降ってきた。
「こ、こ、こりは・・」

 1メートルは余裕であるだろう、針山のように棘が刺さっている大きな棍棒だ。
 その殺傷力は彩られた血痕が物語る。
「天からのお達しだ。
殺れガナティアと言っているみたいだぞ」

「・・・・ま、マイマザーの監視付き」

 見てるなら自分で捕ってくれよと私は心の隅で叫んだ。

 ああ。何ということです。
 神をも恐れぬ行為、あなたはテルタロスに落とされますよ。
 こんな風に非難されるのは間違えないだろう。
 教団内部も、もの凄くまともな人達だった。
 教祖様にお会いしたいのです、の一言で快諾。
 なんて良い人々なんだと私は涙した。
 そして、そんな人達から物を奪うなんて、なんて私は極悪人なんだと私は思った。
「旅のお方、どういったご用件かな?」

 案内された奥には、簡素な椅子に腰掛けた品の良いおじいさんが居た。
 彼が教祖のファルテさんらしい。
「お忙しい中、お手間をかけて申し訳ありません。
実は、私の母に頼まれまして、そちらの教会が使っている歌の教本をお借りできないかと・・」

 ・・返せませんが。
「教本ですか、聖歌隊が使っている物しかありませんが、それで良かったらお貸しできます」

 貰います。
「本当ですか? ありがとうございます」

「いえいえ、お役に立てて光栄です。親御さんを大事に」

 にっこりと微笑んだ教祖に、私はかなり多めの寄付金を渡す。
「せめてものお礼です。教会のためにお役に立てればと、母も申しておりました。
失礼かとも思いますが、お受け取り下さい」

 母、何も言ってません。
「お心遣い感謝いたします」

 いえいえ、こちらこそ歌本をいただきありがとうございました。

「捕ってしまったっ!」

「極悪人だな」

「純粋な一般市民から、聖歌隊の子か捕ってしまったっ!」

「極悪人だな」

 すでに、ウルランの目は笑っていない。
 槍のように私の胸を良心が抉る。

 その後、聖魔教団に歌本が返却される事はなかった。



 ウルランに見捨てられました。

 いや、気持ち的には有りがたいんだけど、前回奪ったモノへの痛みというか何というか・・・。
 当然ですが、私は教本を返して無い。
 ま、それはそれとして、次の任務です。
 って、もうこんな生活から逃れたいんだけど、棍棒が振ってきたりして邪魔するし。
「クエス王の料理を食べろ───って、これ任務なの?」

 いつもの紙には、ただそれだけ書かれている。
 むう。
 たしかにここはクエス国の領内だし、結構簡単だ。
 でも、うちのマザーがまともな事を言ってくるだろうか?
 疑問はつきないが、とりあえずの冒険は始まってしまった。

   クエスの国というは、領土の少なさの割に豊かな土地である。
 海に隣接しているため、美味しいお魚も捕れるし、山もあるからキノコ狩りには最適だ。
 何より、国土が良いため農作物の育ちも良い。
 はっきり言って、ご飯がすこぶる旨い。
「たまには休んでいいよーってことかしら。マイマザー、良いとこあるじゃないの。何だかんだ言っても母親なのね~」

 バジルチキンを頬張りながら眼をとろかす私。
 肉厚の良い味。香り、全てパーフェクトである。
 屋台モノはマズイと思ってたけど、気が変わりました。
「おいちゃん。おかわりね」

 私はにこにこしながら、コーヒーの追加を頼む。
 人々の顔も穏やかで、笑顔と笑顔が伝えられる。
 ああ。めっちゃ、いい国。
「でも、問題は王様とどうやって接触するか───よね」

 王宮なんて、おいそれと入れるものではないし、だいち、王様に料理を作ってもらうなんてお后でも無理そうである。
 いっそ、玉の輿。なんて考えても見たが、少年王らしいので対象外。
 数年後に期待したい。
「あ。お姉さん」

「王様の手料理を食べたいなんて、怪しいし。いっそ、お料理コンテストでも開かれないかなー」

「お姉さんてば!!」

 右肩が揺らされ、私は追加のコーヒーが来ていたのに気がついた。
 と、そうじゃなくてこの聞き覚えがある声は?
「セイル君……」

「ども、お久しぶりです」

 セイル君。
 結構前に、盗みの相棒をしてくれたエルフの子供だ。
 可愛らしい容姿と、愛くるしい声の持ち主だが、内面は色々とグロそうである。
「この前、逃げ帰っちゃったでしょ。聞きたい事がいっぱいなのよ!!」

「えっ、えっ、えっ!?」

 セイルは隣のテーブルから自分が飲んでいただろうクリームソーダを私のテーブルに移動させると、ちょこんと正面に座り直した。
 彼が飼っているのか、犬のような生き物が心配そうに後ろに隠れた。
「この前の聖獣。何だったの?」

 疑問はそれである。
 聖獣というのは希少なもので、この世に数体しか確認されていない。
 後で調べて分かった事だが、インフェとか言っていた聖獣は炎属性の最高ランクで、見るだけでも価値がある代物である。
 ただのエルフの子供が飼える生き物ではない。
「インフェ? うーんと。まずリヴァっていう執事というか、僕のファンというかが居て……そこの犬なんだけど。それが、案外友達居たみたいで、インフェがうちに住むようになって……」

 私は指さされた犬をじっと見つめた。
 間違えない、こっちも聖獣である。
「って、あなたは聖獣使いか!! 何体持っているのよ!!」

「さあて、5,6体は居るんじゃないの? リヴァはうちのお父様に恩があるとかで、昔っから家に居るんだけど、他のは僕の魅力にやられてやって来たとか言っているのが多かったなー。あっ、インフェは違いますよ。女の子だから」

 自分で言うんじゃありません。たしかに可愛いけど。
「あれ、そういえば。変なおじさんは?」

「ウルランなら。ふぅ、私が善良な一般市民から強奪したとかで離れていったわよ」 「ふーん。目の毒だったから丁度いいかもね」

「ま。そうなんだけど」

 ───ちょっと寂しいかもしれない。 「それでいつもの依頼? この間通った街がドラゴンが現れたとかで滅んでたけど」

「……」

「まさかあれ、お姉さんの仕業じゃないよね。そんな外道なはずないもん」

「…………私」

「なーんだやっぱりか。しかし、そのマザーって人酷い人だね。なんか僕、会った事有るような気もするな~。
 いや、知り合いに毒殺が趣味の人とか居るから、そーゆー関係には慣れてるけど、そこまで酷い人だと指折りだから分かりそうだよ」

「今回は違うのよ!!」

 私は精一杯粋がった。
 マイマザーを悪く言われても心が安まるだけだが、口にしたらどんな目に遭うか。
「じゃあ、何なの?」

「王宮に行って、ご飯をご馳走して貰えって。ま、私じゃそんなの無理だし、門前払いだろうけどね」

 と、セイルはクリームソーダをひとすすりすると、いつものにこにこ笑顔でこう言った。
「簡単だよ。僕が居れば国賓扱いさ」

 国賓……。
 いや、深く考えるのはよそう。
 彼のポケットにはいくつもの魔術が含まれていて、どんな悩みも解決してしまうのだ。
「本当? じゃあ、お願いしようかな~♪」

 精一杯の笑顔を作り、その魔術に対応しようと試みた。  まさかその言葉が事実だとは思わずに。
「うん。それじゃあ、ここの会計よろしくね」

 ちゃっかりしている。

 城門を見れば、その国のレベルが分かると言うが、間違えなくクエスは一級の王国だろう。
 厳重な警備の裏側には、見張りの兵士達が弓を構えている。
 もしも、私一人だったら不審人物として即逮捕だっただろう。
 信じてはいなかったが、セイルといてほっとした。
 それにしても、セイルが名乗ったときの兵士の慌てぶりは凄かった。
 大国からの使者でも来たかのように素早く城門が開かれ、多くの兵士が私たち二人を出迎えた。

 続くはずだったが、データ紛失


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